情報と検閲
まず、2006年8月22日づけの仏リベラシオン紙の記事をご覧ください。
日本、フランスTV局「フランス5」のドキュメンタリーに反対する
一ヵ月半前から、きわめて密かに、在仏日本大使館がフランス5に対して、光プロダクション制作の52分のドキュメンタリー映画「日本、過去の影」(すでに
この冬、独仏共同出資のTV局アルテで放送済み)をプログラムからはずすことを求めようとした。日本側外交官は公共放送であるフランス5に何度か電話を
し、フランス5の経営者に対しても書簡を送り、東京とソウルの両方が自国領だと主張している竹島(韓国名独島)をめぐる領土係争について、また、戦犯を祀
る靖国神社問題について、さらに、日本の歴史教科書の歴史修正主義について、この映画の中に間違いがあると主張していた。フランス5では、「日本大使館か
らの問いただし」があったことを認め、それは「ドキュメンタリー制作者との話し合い」を経て解決したとしている。結局、この映画は予定通り8月18日金曜
日に放送された。
(以上、リベラシオン紙から)
在仏日本大使館が問題であるとした具体的な内容はまったくわからないのですが、プログラムから外すように他国の放送局に求める。それも、密かに、複数回、電話や、果ては経営者への手紙で、放送はやめてくれ、と要請する。
これには尋常ならざるものを感じてしまいますが、こんなことって、ありうるのでしょうか。またこの記事の読者は、大使館が直々にこうした行為をすることについて、どう考えるのでしょうか。
ほんとうに問題があれば、「密かに」、こそこそとではなく、堂々とやればいいことです。
一体、日本大使館は何を考えているのでしょうか。
かつての安倍・中川両氏のNHK介入問題もあります。
在仏日本大使館はフランスにおける日本政府の代表ですから、その言動は日本政府の言動とみなされるわけでしょうし。まさか、内弁慶で、国内では無理難題のごり押しをしても、外国、ことにヨーロッパ先進国に対してはこそこそせざるをえないようなことをしているのでしょうか。
なんだか、とても恥ずかしい(恥ずかしいからこっそりする→結果、もっと恥ずかしいことになる。恥の上塗り、ですね)。
駐日フランス大使館が日本の放送局にこうした要請をすることがあったら、たとえばアルジェリア問題の扱い方が間違っているからプログラムから外してくれ、などと求めてきたら、日本の放送局はどうするのでしょうか。それも、そうっと、こそっといってきたら。そしてそのことが新聞記事になったときには、日本の読者はなんというでしょうか。
さてさて、1973年の春、毎日新聞横浜支局の新館移転の際、戦時下の情報統制を示す資料が発見されました。毎日新聞検閲部の「検閲週報」数冊分の綴じ込み、612ページです。
静岡県立大学の前坂俊之教授がそれについて書かれていますので、ちょっと見てみましょう。
「検閲週報」には、1940~1945年のあいだ戦時下の情報政策を司り、45年12月31日に廃止された内閣情報局が、何を考え、新聞に何を求め、新聞がどう対応したか、事細かに記されている。
いったん差し止め事項に違反すれば、新聞の発売禁止、最悪の場合、新聞発行停止、廃刊にもつながる厳しさのため、「検閲部員は火薬工場に働いているような気持で、責任の重大さを痛感している」という検閲部長の言葉。
軍事面・政治面については大本営が検閲にたずさわったので、情報局の仕事は軍事問題を離れたあらゆる問題、外交、国際情勢に及ぶ。
検閲指令は、「総動員法による禁止事項」約50件、内務省の「編集注意」約80件、治安関係の内務省差し止めが約20件の計160件。
ほかに各種法令による指令があって、「がんじがらめ」の状態。
「そのほか物資不足とか、配給不円滑に対する非難の記事とか、あるいは時局に対する不平、不満の記事、政府や地方当局者の措置に対する非難の記事、また時局犠牲者の窮状を刺激的に扱うというようなことは、すべてご遠慮願った方がよいものと思う」という検閲部長の声がある。
この通りにしていたら、前の記事で紹介した情報局発行『写真週報』のような、イケイケ記事しか書けないことになりますね。
ちなみに、「情報局検閲」とは「内務省検閲」と同じことです。
1948年の12月24日、東条英機が処刑された翌日、裁判も行われずに釈放されたA級戦犯19名のうち7名が、岸信介を初めとする元内務官僚、情報局関係者だったと、田原総一朗が岸信介の評伝(『人物昭和史3 総力戦の人びと』でいっていると、ここでいわれています。
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コメント
いつもすてきな写真と文章に惹かれて読んでおります.少し前の話なので恐縮なのですが、7月13日付のブログで貞子ちゃんが「麻生氏に期待する」といった発言にとむ丸さんは絶句しておられ、私もそのときはそう思いました。ところが、それ以後TVでの話し方や、靖国提案などを聞くうちに、むかしのフロッピー発言だけで判断してはダメかなと思うようになってきました.そして最近特にジャパンハンドラーズではかなり麻生氏に期待しているようなのですが、とむ丸さんはどのように思われますか?
投稿: はじめまして | 2006年8月25日 (金) 11時51分
麻生は所詮,北九州の組織暴力団である工藤会のスポークスマンに過ぎません。総裁選に関しては安倍だけになると国民の興味関心を失う(と言っても実際に投票できるのは自民党員のみなのですが……)というので,広告会社あたりが麻生へ出番を頼んだというのが真相でしょう。わざとらしい屁理屈の言い方そのものが麻生本人の考えたしゃべりではなく,予め用意された原稿を暗記しているというだけ「まし」であって,安倍のように予め用意された原稿さえもろくに読めない知能の悪さを露呈しないだけ「まし」に見えているだけです。
# ちなみに安倍と麻生の裏にはそれぞれのバックにいる組織暴力団の対立も絡んでるのですが,ここでは書きません。
投稿: kaetzchen | 2006年8月25日 (金) 14時20分
はじめましてさん、はじめまして。
「ジャパンハンドラー」の名前だけは知っておりましたが、いわれてみて初めて読んでみました。国のリーダーを考えるのに、私とずいぶん視点が違うな、というのがまず最初の感想です。
それと、ジャパンハンドラーさんの厳選リンク集はご覧になりましたか?あの中に「washinton times」が載っていますが、あれは文鮮明の統一協会の広報紙ですよ、たしか。
それと、血筋だ、明治以来の流れだ云々といわれていますが、なぜそれが総理大臣に必要なのか理解できません(いま、自民党の総裁になるということは、日本国総理大臣になることですもの)。
ということで、申しわけありませんが、ジャパンハンドラーさんも麻生氏も、少なくとも私が尊敬する相手ではないと思います。
kaetzchenさん、バックにいる組織暴力団の勢力争い、というのは何度かどこかで読みました。
それにしても、麻生太郎氏という人物、政界に入る前は金持ちのぼんぼん然としていて、今ほど人相は悪くなかった、と昔会った人は言っておりました。
投稿: とむ丸 | 2006年8月25日 (金) 15時28分
とむ丸さん、こんにちは。
これって、大使館がやるっていうことは、おおっぴらにかこそこそとかは別にしても、要するに国策ですね。
>在仏日本大使館はフランスにおける日本政府の代表ですから、その言動は日本政府の言動とみなされるわけでしょうし。まさか、内弁慶で、国内では無理難題のごり押しをしても、外国、ことにヨーロッパ先進国に対してはこそこそせざるをえないようなことをしているのでしょうか。
というとむ丸さんの分析に完全に同意します。こういう恥ずかしいことをやめるよう外務省や国会議員(外務委員会の議員あたりかしら)に言わなければ。
それにしても、日本の政府機関の動向について知るために日本の新聞でなくて外国の新聞に頼らなければいけないというこの情けなさ。(笑)
投稿: 村野瀬玲奈 | 2006年8月26日 (土) 19時53分
村野瀬さん、こんばんわ。
ほんと、情けない。
フランス側も記事にしたのは、呆れたからでしょうね。こうした稚拙な外交の責任は誰がとるのでしょう。
投稿: とむ丸 | 2006年8月26日 (土) 21時37分
子猫さん、とむ丸さん、コメントにお返事ありがとうございました.なるほど、何も知らないで、人のブログに書いてある事を鵜呑みにすると
いけませんね.勉強不足を反省です.夏休みも終わり、少しは涼しくなってきたので、秋はじっくり読書三昧をしたいと思っています.話はとびますが、とくらさん,ガンパッて欲しいですね.こちらはおおいに
期待しています.
投稿: はじめまして | 2006年8月31日 (木) 17時11分
はじめましてさん、いらっしゃい。
わたしもそんなに知っているわけではないので、また何かありましたら教えてください。とくらさんに一緒にエールを送りましょうか。
投稿: とむ丸 | 2006年8月31日 (木) 18時46分