ホロコーストの闇 つづき
ただし、花と思われているここは、本来、「ガク」にあたるところとか。
さて、先日の記事「ホロコーストの闇」で書いた、出産を迎えた妊婦にふりかかってきた悲惨な話を読まれて、みなさんはどう感じられたでしょうか。
ユダヤ人を平気でいたぶり殺す群衆におぞましさを感じながらも、人間に潜む獣性を見る思いで、自分も、そして周りの人たちもけして無縁ではないと考えられた人もいらっしゃるのではないでしょうか。
ユダヤ人一家をかくまっていたことが見つかり、見せしめでしょう、幼い子どもを含めて全員が殺害されてしまった家族がいましたが、ことはそれだけではおさまりませんでした。なんと、その地域で同じ姓をもつ家族がことごとく皆殺しにあったのです。それで誰も助けようとしなくなった、といいます。
それを考えると、ユダヤ人妊婦と生まれた子どもに対する群衆の蛮行は、かならずしも憎悪から生まれた自然発生的なものとは思えなくなりました。
うまい表現が見つかりませんが、「やらせ」のようなもので、動員された可能性も考えられます。動員されてその現場にいたら、あの狂気にも似た行為に荷担せざるを得ないような気がします。もし動員を拒否したら、その時は自分と自分の家族の命が危機に陥る、そんなことがあったのかもしれない、十分ありうるな、と思います。
小さな町で、隣がどうもおかしい、と考えてゲシュタポに通報した人もいました。その結果、かくまわれていたユダヤ人のみならず、かくまっていた家族も、全員に死刑が執行されました。ナチ統治下ではユダヤ人は法律の保護下にはなかったので、見つかればその場ですぐに射殺です。でも、かくまった方は市民ですから、一応法的な手続きが取られます。が、射殺と絞首刑の違いがあっても、結果は同じ。
戦後になって、ゲシュタポに通報した隣人の家が売りに出されているところを見ると、ナチの統治が終わってから、どこかに引っ越していったのでしょう。そりゃあ、誰が誰を「売った」のか周囲の人は覚えていますから、とても住んではいられないでしょう。
「ラインハルト作戦」という名が示すように、統治する側が、そうしたことを政策として実行していったわけです。あまりに大規模に、あまりに徹底的に、組織的に遂行されていき、それが日常化すると、人は自分の感性を押さえ込み、良心も脇に置いて、いえ、そうしたことさえそのうち意識からなくなり、ごくあたりまえに、それこそ粛々と、処理をしていくのかもしれません。
戦時中の中国で、「手術演習」として、麻酔なしに生体解剖をした元軍医の話が、今日の新聞に出ています。
「生体解剖した事実を多くの関係者は本当に忘れている。信じられないかもしれないが、当時はあまりに日常的で印象に残ってないのです」
そして、「麻酔をせずに悶絶するのを怖がっていては、天皇の軍隊ではない。むしろ『仕事をした』という達成感でやっていた」という、当時の空気も伝えています。
ごく普通の人が、こうした残虐行為に手を染めていく。残虐を「非道」とおきかえてもいい。
政治に行き詰まると、権力を手中にするものは、誰かを犠牲にして打開しようとします。ナチや戦時中の軍隊のような露骨さは、もっと洗練されて、巧妙に血祭りにするものを求めている、なんて一足早い怪談ものが、目の前をちらちらしています。おまけに、犠牲になるのは、いつも弱いものですよね。
おととい、医療制度改革法が成立しましたね。川辺よりさん、早雲さんを読むと、この医療制度改革なるものが、弱いものに、いかに暴力的に襲いかかってくるか、よく分かります。
弱いものとは、権力を持たないものだと私は思っています。ですから、ナチ統治下の群衆の蛮行は、弱いものが弱いものをいたぶる構図になっています。お金は、特に新自由主義を標榜する社会では権力の代わりともなりますから、弱いものとは、権力もお金も持たないものだといえます。
まさに私たちのこと……
弱いものが犠牲になるのは、やはりおかしい。犠牲になるのはいやだ! と、声を大にして叫んでみよう。
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コメント
兵隊として中国に行っていた人から聞いた話ですが、軍医が「戦争中はなんでもできる」と言っていたそうです。
結核と花柳病の中国人を連れてきて軍医が空気を注射したら、その人は謝謝と言って、すぐ昏倒したそうです。。治療してやると騙して連れてきたのでしょう。そのあと骨格標本を作る手伝いをさせられたそうです。
投稿: ヘリオトロープの小部屋 | 2006年6月16日 (金) 13時57分
その程度なら,まだましな方ですよ。(^^;)
# 恐らく読んだ後,ごはんが食べられなくなると思うので,ここに書くのは自粛しますけど。
投稿: kaetzchen | 2006年6月16日 (金) 14時22分
こんばんわ、ヘリオトロープさん、kaetzchenさん。
確かに、もっとひどい話しがごろごろしているのでしょうが、それでも光景が目に浮かんで、とてもつらいですよね。
軍医だった義理のお父さんが、戦後公職追放にあったという話を友人から以前聞いたとき、よく意味がわからなかったのですが、そういうこと、というか、それに類することだったんですね、きっと。
投稿: とむ丸 | 2006年6月16日 (金) 22時38分
>ここに書くのは自粛しますけど。
事実をお知りなら開示すべきだと思います。
フランスの格言だったかな、「ノブレス・オブリィジ」(発音はこれでいいですか?kaetzchenさん。またつっこまれそうなので)つまり「位高きものは、努め多し」あるいは「エリートとよばれるものは、獲得した知識、技量を自分のためではなく、人のために使え」だったと思いますが。
また、レーニンも言っています「インテリゲンチアはその知識を独占することなく、何らかの理由で知識に触れられなかった人々のためにそれを使え」と。
投稿: 弥助 | 2006年6月17日 (土) 18時41分
中学生のころだったかな。一枚の絵を見てとてもショックだったのを覚えています。それは昔のイギリスの絵だったと思います。
少女が目隠しをされて膝を付いているのです。前には木の枕のようなものが置かれていました。横には大きな斧を持った男が、やや目を伏せがちに立っていました。周りには沢山の乳母や、使用人が恐れおののき、気の毒そうな目で見ているのです。少女は10歳ぐらいでしょうか、目隠しをされているとはいえ
その奥には不安と、何故だろうと言う眼差しがあったことは間違いありません。
この絵は多分、権力闘争に巻き込まれ、なにがなんだか判らないうちに、処刑されんとされる王位継承者の姿だったのです。
当時のあたくしは、この少女に同情を寄せ、この首切り役人に限りなく憎悪を示したものでした。
ホロコーストとは無縁なことですが、とむ丸さんの文章を読んでいて、ふと思い出したことを書いてみました。
また、この絵誰か知っている人がいたら教えてくれますか。もう一度見てみたい・・
投稿: 弥助 | 2006年6月17日 (土) 19時09分
ジェーン・グレーだと思います。9日間の女王。確か、ヘンリー8世亡き後、いや、彼の息子で王子と乞食のモデルになったエドワードの亡き後かな? 国王にかつがれたのですが、マーガレット1世の姉、メアリーが即位して、王位簒奪の罪名で、その夫と共に処刑されました。オノを持った男性は有名な死刑執行人の一族の生まれだったとおもいます。サムソンだったか、そんな名前。
大英博物館には彼女が残した聖書が展示されていました。余白に小さく、さようなら、と書かれているんですよね、もちろん、ラテン語か何かで。
ジェーン・グレーは一応王位継承権はあったけれど、かなり遠い血縁でしたよ。だから、当然といえば当然なんですが、まだ10代で、夫の父親が高位の貴族。その野心の犠牲です。
フランスの処刑はギロチン。イギリスはジェーンの目の前にある大きな丸太の輪切りの一部を切り落としたものです。そこに首をのせるわけです。
投稿: とむ丸 | 2006年6月17日 (土) 19時34分
言い忘れましたが、当時ジェーンは、16歳か19歳。10歳ではありません。
死刑執行人そのものに罪はありませんよ。
投稿: とむ丸 | 2006年6月17日 (土) 19時36分
ありがとうございます。
そうでしたか、16歳か19歳でしたか。なにしろ遠い昔の記憶でしたから。
>死刑執行人そのものに罪はありませんよ。
そうなんです。それに気が付いたのは、それから10年以上かかりました。
投稿: 弥助 | 2006年6月17日 (土) 20時29分
弥助さん、分かりましたか。以下のURLに載っていました。
http://blog.so-net.ne.jp/lapis/archive/20050902
あ、首を載せたものは丸太を切ったものではないですね。
投稿: とむ丸 | 2006年6月18日 (日) 12時12分
ご紹介のブログ読ませていただきました。
そして「絵」にもめぐり合うことが出来ました。今見てもショックです。
それにしても構図の中で、あのお坊さんが居ることをすっかり忘れていたのですね。何故だか判りませんが。
それと、ジェーン.グレーはイギリス中世史のなかでもかなり有名なのですね。まして、漱石の「倫敦塔」の中にも出てくるなんて。
すっかり無知と教養の無さを晒してしまいました。これではW氏にバカにされても仕方ないです。
ジェーン.グレー。美しく聡明な女王、彼女の治世がもし続いたとしたら、堂だったんでしょうか・・
投稿: 弥助 | 2006年6月18日 (日) 14時45分
そんなにしょげることはありませんよ。日本ではあまり知られていませんし。これを機にそのあたりの歴史を紐解くと、おもしろいかもしれません。
聡明だからといっても、古典の素養があったということで、すばらしい治世が訪れるわけでもありませんから、あまり期待はできません。夫の父親のノーサンバランド公に権力を握られるかもしれませんし。ただ、メアリーのように血なまぐさくはないでしょうね。エドワード6世亡き後、実の姉が2人もいるのに王位に就かされたのが、可哀想ですよね。公の方にどれだけ勝算があったのでしょうか。
弥助さんはロマンティストなんですね。
投稿: とむ丸 | 2006年6月18日 (日) 17時30分