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谷中村滅亡史

Photo_3  

「明治政府悪政の記念日……準備あり組織ある資本家と政府との、共謀的罪悪を埋没せんがために、国法の名によって公行されし罪悪の日」と寒村が呼んだ1907年(明治40年)6月29日、土地収用法が適用された栃木県下都賀(しもつが)郡)谷中村(やなかむら)の強制破壊が始まりました。

  Photo_6 足尾銅山の鉱毒問題は、すでに明治14年に時の知事が渡良瀬川河流の魚類の販売と食用を禁じた頃には知られていたようです。そうした中、21年の大洪水で渡瀬川・利根川沿岸一帯は鉱毒によって田畑が覆われ、翌22年には非常な不作に見舞われます。

 (この洪水も、古川鉱業所の製錬用薪炭材の乱伐が招いたものといわれていますし、当然煙害も周辺地域に及んでいました。)

 さらには24年の大洪水に、ついに栃木・群馬・茨城・埼玉・千葉の各25・26・12・2・7村(当時)の被害民一同は、連署を添えて政府に請願書を提出することになります。

 曰く、「速やかに鉱毒除害の道を講ぜよ、しからずんば寧ろ(むしろ)直ちに鉱業を停止せしめよ」と。

 この時田中正造が「足尾銅山鉱毒加害の儀に付質問書」を国会に提出して政府の答弁を求め、この鉱毒問題は初めて公のものとなりました。

 が、国会は時をおかずに解散。その後しばらくしてやっと答弁が公けにされます。

「……被害の原因確実ならず……試験調査中なり……一層鉱物の流出防止の準備をなせり。」とは、その後何十年にもわたって日本各地で繰り返されることになる、責任回避の弁の始まりでした。

 日清戦争後の富国強兵・殖産興業の政策を重視して一般農民が顧みられることがなかったとはいえ、その裏には時の権力者、農務大臣の陸奥宗光と足尾銅山を経営する古川市兵衛の姻戚関係があったことを『谷中村滅亡史』は伝えています。 

 かつての海援隊の一員、治外法権の撤廃に尽力した明治の元勲は、寒村の筆力の前には形無しです。(ただし、陸奥は寒村のこの著作が出る当時にはすでに死亡)

「そもそも足尾銅山の鉱毒問題の原因は、政府委員(昭和40年に再びこの鉱毒問題が持ち上がったときの経済企画庁長官藤山愛一郎以下の委員を指すと思われます)がみずから認めているように、『坑内から出てくる硫酸銅を含んだ水をそのまま、渡良瀬川に流し込んだ』ことにある。」

 鉱毒反対運動は官憲による弾圧を受け、被害農民は威嚇・脅迫はもとより、誘惑・買収等の懐柔策に翻弄されて事態の進展はみられず、1901年、田中正造は天皇直訴に踏み切ります。

Photo_8 左はその時の直訴状。

 これにより世論は沸騰しましたが、結局、鉱毒問題は治水問題にすりかえられ、最後の抵抗拠点、谷中村は、廃村、遊水池となったのです。

 現在、谷中村は「谷中湖」にその名をとどめていますが、ここは渡瀬遊水池の一部をなしているにすぎません。

 おもしろいのは、寒村がたびたび、資本家と政府の「共謀」的罪悪、という表現をしていることです。もともと「共謀」という語は一般的な普通名詞ですからあたりまえのことですが、すぐに、今問題の「共謀罪」を連想してしてします。

 寒村のいうこの類の共謀罪は、審議中の共謀罪法案の取り締まり対象には当然入っていないのでしょうね。

 

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「歴史」カテゴリの記事

コメント

こんにちは

水俣病問題に関する記事をTBさせていただきました。
水俣の前には谷中村あり、なんですよね。

水俣の問題も、さかのぼれば明治のとき、潰された塩田の跡地に日本窒素の工場ができたところからはじまっています。その後日窒は国策企業として、植民地朝鮮にさらに巨大な工場をつくります。その工場の建設にあたっては、付近の住民が強制的に移転させられたと聞きます。建設現場に、当時の内務省官僚だった岸信介(のちの)首相が視察に行っているというフィルムも見たことがあります。

同じ構図が繰り返されているようです。

投稿: 朱夏 | 2006年5月 6日 (土) 14時15分

 朱夏さん、お久しぶりです。お忙しそうですね。コメントありがとうございました。

 明治以降の日本の近代化とは何だったのか、考え込まざるを得ませんね。

 一方はあの戦争、そしてまた一方はこの公害問題。いつも問題から目をそらし、その場しのぎに終わってきたことが次の問題を生むことになったのかな、と考えていますが。

 岸信介が視察ですか……60年安保時、暴漢に襲われて抱えられている姿を、子供心に覚えています。


 

投稿: とむ丸 | 2006年5月 6日 (土) 20時03分

60年安保というと,社会党・浅沼書記長の刺殺事件を思い出します。犯人の右翼少年・山口二矢(おとや)は今ごろ何を考えて独房で過ごしているのでしょうねぇ。

# 確か無期懲役だから,まだ出て来てないはず。(^^;)

投稿: kaetzchen | 2006年5月 6日 (土) 22時21分

重要な問題から目をそらし,その場しのぎに終わってきたことが,さらに次の問題を生むことになる。A級戦犯の岸何某(昭和の妖怪)が首相として甦ることをアメリカが容認したこと自体,どう考えてもおかしいと思いますね。

ただ,戦後の左翼運動や反公害運動などが,常に反米運動という国粋主義右翼運動と表裏一体だったことは,あえて指摘しておかないといけないと思います。

また,日本チッソの経営者は元皇族の系列でしたから,水俣病の告発はそのまま天皇制への告発だと受け取られたとしても無理はないかと(笑)

投稿: kaetzchen | 2006年5月 6日 (土) 22時28分

そうそう、朱夏さんへの返事を書いていたとき、浅沼稲二郎(だったかな?)のことも思い出していました。
あの時は小学生だったと思いますが、暗殺という前近代的なことがあったのにびっくりしました。
戦後の左翼運動の問題についてはあらためて考えてみなければならないですね。
おかげで、私など、警戒心がとれないですもの。

投稿: とむ丸 | 2006年5月 7日 (日) 00時08分

それにしても,でっかく太った浅沼さんの巨体を貫き通す凶刃というのは,正に狂人のなせるわざ,ですね。実はこの事件が起こったのは私が生まれた年でして(^^;),後に大江健三郎の「セヴンティーン」のコピーを読んで,非常にショックを受けたことがあります。何でこれが発禁になったの? というショックですが(笑)

# ちなみに外国語に訳された「セヴンティーン」は容易に入手可能です。(^o^)

投稿: kaetzchen | 2006年5月 7日 (日) 20時18分

あの浅沼さんの倒れた年に生まれたとは。

でも、それと『セヴンティーン』の関係は?発禁の話も私は知らなかった。もしかしたら○○禁のため?

投稿: とむ丸 | 2006年5月 7日 (日) 21時15分

浅沼さんを殺した犯人の山口二矢がまだ17歳だったからなんですよ。(^^;)

発表された雑誌が『中央公論』だったので,大江は仕方なく筆を折らざるを得なかったという訳です。

投稿: kaetzchen | 2006年5月 7日 (日) 22時30分

ええ、そんなこと知らなかった。とにかく子供心には新聞に載った写真の浅沼さんの姿が強烈で、17歳とかいう犯人の年齢はすっかりわすれていました。どこか、右翼結社に属していたような記憶ですが、どうだったのかな。

投稿: とむ丸 | 2006年5月 8日 (月) 00時47分

こんにちは。横レス失礼します。
山口二矢は獄中で自殺していますよ。
それをまた神聖視するウヨ系のサイトがあったりなんかして。

ところで昔はテロの犠牲になるのはエライ人だったんですね。
今は市井の人々が犠牲になっていますが。

投稿: ハムニダ薫 | 2006年5月 8日 (月) 16時50分

ハムニダ薫さん、はじめまして。最近はよくお宅にもおじゃましております。

山口二矢は獄中自殺ですか。そういえば、そんなニュースを見たような気もします。何とも頼りない記憶ですね。

投稿: とむ丸 | 2006年5月 8日 (月) 22時24分

ハムニダ薫さん,時々トラックバックを頂いてすみません。

そっか,獄中自殺してましたか。人間の記憶って案外いいかげんなものですね。(^^;)

# 未だに「独島」の記事の件で,ネットウヨからの嫌がらせトラックバックがごちゃごちゃと来るんですよ(笑) あいつら,ほんまもんのアホでんがな。自分たちに論理があると思い込んでる,まさに大人を見下げるバカモノたちですね。

しかし,ハムニダ薫さんは毎日,ハングルで仕事をされてる,脱帽です。私はいつも子音の使い分けとパッチムで,叱られてばかりいます。

投稿: kaetzchen | 2006年5月 9日 (火) 14時03分

とむ丸さん、kaetzchenさん、私は5秒前のことも忘れちゃいますから、記憶に関しては何も言えないんですけど(笑)。

>kaetzchenさん

ちょくちょくTBさせていただいております。コメントはGooにログインしなくちゃならないので、ズボラな私はいつも遠慮してしまいます。すみません。

いわゆるネットウヨが描いている韓国が、いったいどこの国を指しているのかフシギでならない今日この頃です(笑)。

あと、私の韓国語なんてぜんぜんですよ。発音はいつまでたっても「日本人風」ですし。それに仕事は韓国語→日本語というのが多いので、どちらかというと正確な日本語ができることの方が大事だし。とかエラそげなことを言いつつ、自分のブログには誤字脱字いっぱい(爆)。

投稿: ハムニダ薫 | 2006年5月10日 (水) 13時58分

ハムニダ薫さん,こんにちは。自分の町の現職市長の大手ゼネコンへの便宜供与問題で,怪文書をあちこちにばらまくのが忙しい kaetzchen です(自爆) ほとんど公職選挙法すれすれですけどね。(^^;)

ネットウヨって,韓国(南朝鮮)と北朝鮮(北韓)との区別とか,いま書いた書き方の歴史的な意味なんて,ぜんぜん分かってないんですよ。だって,日本語の活字だらけの本を読んだことがないんだから(笑)

某ブログで,某独立行政法人に就職できたから自分は小泉政権を支持するなんてバカなことを書いてた若者がいたけど,本当に研究職で採用されたのかなと疑問に思ったり。今まで,外国の雑誌にどれだけ論文載せたの?って,皆さんの税金で外国でドクター取らせてもらった私としては,とても不思議に思ってしまったり。

投稿: kaetzchen | 2006年5月10日 (水) 16時29分

この記事へのコメントは終了しました。

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