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廃刊に次ぐ廃刊、弾圧に次ぐ弾圧

Photo_21  1910年は、幸徳と管野の結婚に煩悶もんする寒村が赤旗事件による下獄を終えて帰京した年ですが、同時に、大逆事件に驚愕、衝撃を受けた年です。

 この年の12月、堺利彦は自宅に生活と運動の拠点として売文社を興し、ここで大杉も寒村も、大逆事件後の「冬の時代」をしのぎます。

 翌11年、1月24日、大逆事件被告12人の死刑が執行されます。このとき堺は悲憤やるかたなく酒をあおり、「杖をふるって軒灯をたたき毀しながら深夜の街上を彷徨した」といいます。

 上の写真はその売文社(自宅)前の堺一家。売文社設立時、娘の真柄は7歳です。

 堺利彦がルソーの『懺悔録』(または『告白録』)の抄訳を出したのもこの頃。ルソーの『告白録』といえば、中学生か高校生の私が、背伸びをして買い求め、読んではみたものの何か不消化に終わった思い出の本です。ディドロたち、百科全書学派の悪口も、ずいぶんとストレートに書いてありました。

 1912年(大正元年)、寒村は大杉と『近代思想』を創刊し、寄稿や広告にも恵まれ、順調に滑り出したようです。広告は、『実業の世界』、丸善、三越デパート、ライオン歯磨きなどがお得意さん。

 寄稿も、堺利彦を初めとして文人、才人がひしめいて、随筆からバーナード・ショーの翻訳、学問的評論、和歌までありました。若山牧水も歌を寄稿した一人ですが、近代思想に載った歌には牧水君の特色が出ていなかったように思う、とは寒村の言です。

 この平穏の生活に飽きたらず、「本性の謀反気がムクムク頭をもたげてじっとしていられ」ずに、寒村らは満2年で近代思想を廃刊にします。

 当時、第2次西園寺内閣が2個師団増設を強行に主張する陸軍のために倒れ、山県有朋を後ろ盾にした桂太郎が第3次桂内閣を組織しましたが、民衆はこれを藩閥の横暴と受けとめて、憲政擁護運動が起こっています。護憲運動の指導者は、政友会の尾崎行雄、立憲国民党の犬養毅らです。

  これには三井、岩崎(三菱)の2大財閥の争いも絡んでいて、三井が犬養毅、尾崎行雄ら政党勢力を援助していたと、寒村は伝えています。

 これに対し、桂首相は新党を作って悪あがきをしましたが、数万の群衆が国会を取り巻くにいたって総辞職を決意します。それも、このままでは内乱になる、と衆議院議長に諫められた上でやっと決心したこと。権力への執心、ひとかたならず、といったところです。

 議会では政府の弾劾がおこなわれ、院外では群衆と警官が衝突し、軍隊が出動しています。 

 桂の後を継いだ山本権兵衛内閣では、海軍高官と三井の重役連にからまる贈収賄疑獄、ジーメンス事件が起こって内閣不信任案が提出される一方で、群衆は4,000の警官と衝突。この時もまた、軍隊が出動。

 そうした世の動きを背景に、大杉と寒村は文芸雑誌の刊行を止め、労働運動の機関誌を出すことにします。

 1914年(大正3年)、第1次世界大戦が起こった直後に、月刊『平民新聞』が発行されます。が、初号から発禁。禁止の理由は「全紙面を通じて安寧秩序に有害だ」ということ。

 監視・妨害する警察とのいたちごっこを、寒村は、「もう平民新聞が合法的出版物なのは形式だけで、実際は秘密出版と少しも変わらない」と述べています。

 そして6号を出したところで月刊平民新聞も廃刊。

 次に、他の仲間も経営に加わり、平民新聞の性質を併せ持つ『近代思想』を復活させますが、これも初号を除き発禁の連続で、第4号で廃刊。

 週刊平民新聞、日刊平民新聞以来、廃刊に次ぐ廃刊、弾圧に次ぐ弾圧。それでも意気軒昂な寒村たちには驚くばかりです。でもいくら血気盛んとはいえ、実際のその胸中はどんなものだったでしょうか。

 藩閥、閨閥、政商、疑獄……権力と金力をほしいままにする、新政府発足時からの政権を担う人々とそれに連なる企業人、そして官僚。

 彼等は一体、ほんの一握りにも満たない寒村の仲間たちを、なぜそれほどまでに怖れたのでしょうか。

 

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コメント

また薬物の商品名 url ですね,困ったもんだ。(^^;)

商品名パキシル,化学の名前では塩酸パロキセチン水和物 paroxetine hydrochloride hydrate というのは,分子量374.84 のうつ病・パニック障害に使われる精神科の治療薬です。但し,肝臓の CYP2D6 という酵素を阻害するので,副作用も大きく,特に緑内障には禁忌。メレリル(塩酸チオリダジン)を代謝する CYP2D6 を阻害するために,血中濃度が高くなり中毒を起こす事故も起こります。さらに,必須アミノ酸の L-トリプトファン含有製剤だとか抗躁剤の炭酸リチウムとぶつかって,セロトニン症候群という発狂状態に陥ることもあります。だから,良心的な精神科医は最近はこの薬は使わない傾向にあります。

投稿: kaetzchen | 2006年5月14日 (日) 06時18分

おはようございます、kaetzchenさん。
そんな薬品のページに誘導して何になるのかしら? ただ手間をかけさせるためにやっているのか、嫌味なのか。投稿者名で、この種のコメントは分かります。即削除です。

投稿: とむ丸 | 2006年5月14日 (日) 09時07分

とむ丸さま こんにちは
「共謀罪」をマスコミ取り上げはじめましたね
 
国会議事堂をとりまく群衆を想像して当時の政治が国民の身近にあったことを思います・・・今の日本はどうでしょうか?政治と日常生活が繋がっていることを実感できない(しようとしない)人間が政治を動かすことはできませんよね。今の日本の礎(いしずえ)を築いた先輩方に学ぶ事は多いと思います。
寒村さんはじめ皆さん、ホントにしぶといですね!!
では、ガンバですぞ!

投稿: こば☆ふみ | 2006年5月14日 (日) 14時14分

パキシルと言うと,以前から自殺傾向が強まるという副作用が見られてましたけど,米 FDA が正式に認めました。
http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/kokusai/20060513/20060513a3550.html

要するに,削除した嫌がらせコメントを書いた奴は,とむ丸さんに「自殺しろ」って言いたかったのかもね(笑)

# 井上陽水の世界だなー。(^^;)傘がない~♪

投稿: kaetzchen | 2006年5月14日 (日) 16時30分

こば☆ふみさん、ありがとうございます。今週は強行採決になりそうで、心配です。

 kaetzchenさん、わざわざありがとうございました。どうせそんなことだろうと思ってました。でも、それって、「教唆」ということにならないのかしらね。
 それにしても、そんな知識どこで仕入れるのかしら。もしかしたら、何かマニュアルがあるとか。医者からもらった薬を調べようとしたらできるし……もしかしたら、本人がその薬を貰っているとか?
 

投稿: とむ丸 | 2006年5月14日 (日) 20時41分

民主党や社民党とケンカしただけで「議論は尽くされた」なんて,ふざけていますよね,まったく! 明日の国会が楽しみだ。

向精神薬についてのマンガみたいなのが,結構アングラの世界では売れてるみたいです。時々コンビニのマンガの間に入ってたり(笑) あと古本屋でも見掛けますね。中途半端な知識で書いてあるので,呆れてものが言えないことも。

確かに,パキシルを書いた本人が処方されている可能性は十分にあるでしょうね(笑) 都会の駅前なんかで開業してる「心療内科」のクリニックあたりでは,意外と簡単にそういった薬物を渡して儲けている可能性もあります。今や,精神科医は粗製濫造に近い部分もありますから。(^^;)

投稿: kaetzchen | 2006年5月14日 (日) 20時53分

この記事へのコメントは終了しました。

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