近代化の陰に
日本のラン、石斛(せっこく)。今年もまた、その可憐な姿を見ることができました。
私はときどき、明治からあの昭和の敗戦にかけて、日本という国が大国を目指さなかったら、拡張主義をとらなかったらどうなっていただろうか、と考えることがあります。
富国強兵と殖産興業の旗を振ってしゃにむに近代化を成し遂げようと強権を発動した歴史が納得できません。
いくら産業を興しても、大多数のまずしい日本の国民はその恩恵にあずかることが少なかったのではないでしょうか。むしろ犠牲が大きかったのでは。足尾鉱毒事件から水俣のチッソ、女工たちばかりか一般労働者の過酷な生活……労働争議も起こっています。
米騒動が起きたのも、1度や2度ではありません。有名な1918年(大正7年)に始まるものは、大規模なものだけでも3度目で、同時に炭鉱暴動も引きおこされています。そして警官隊との衝突。軍隊による鎮圧。
この年はまた、シベリア出兵のあった年です。すでに1月、居留民保護を名目にウラジオストクに巡洋艦が派遣され、5月には本格的に出兵。最後の撤兵まで、あしかけ8年、戦費10億をかけ、3,000人を超える犠牲を払い、何の益もなく終わっています。
居留民保護の名目は、ズデーテン・ドイツ人保護の名目でチェコに侵入したナチス・ドイツも使っています。いわば常套手段です。そしていたずらに戦費と生命が消費されるのは、イラクの米軍と同じ……。
治安維持法成立以前にも、政府批判するものを捕らえる網はいくつもありましたし、警察組織もできあがっていました。民権派を取り締まるための讒謗律は、すでに1875年に公布されています。悪名高い特高課が警視庁に設けられたのは、大逆事件の翌年、1911年の8月です。
そして治安維持法も2度の改定を経て、取り締まり対象をどんどん広げていき、1941年の改定では、とうとう予防拘禁制度も導入されました。
こうした強権政治によって整備した法律網と体制のもとで、善男善女が見事に翼賛化していき、軍国少年・少女が育ちました。
随筆家の岡部伊都子さんがよく書いていらっしゃる。
1943年、出征間近の婚約者が、「こんな戦争間違っている。天皇陛下のためには死にたくない」と言ったとき、岡部さんは、「私だったら喜んで死ぬ」と答えたそうです。そして婚約者は沖縄で戦死。
そんな加害者としての己を見つめて、岡部さんはこれまで、あの小さな体にむち打って、発言を続けてきたのです。
その一方で、児玉誉士夫のような人が、上海で軍需物資を取り扱って不正を行い、巨万の富を得てました。父からも、よく聞いた話です。
そしてこれが後の自由党結党資金になったとか。
いつの世も、損するのは庶民ばかり。でも、そうさせてはいけませんね。
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コメント
トラックバックした「コペルニクスの生涯」とも絡んでいるのですけど,やはり「和魂洋才」がすべての元凶じゃないかなという気がしています。
つまり「良い所どり」はするけど,その背景にある哲学などの本質は見て見ぬふりをする,又は理解しようともしない。東大の理系に工学部が最初にできた,というのがその象徴でしょう。本来なら神学部から独立した理学部を作り,そのあと応用技術である工学部や農学部や薬学部や医学部をというのがスジです。
産業を興しても失敗続きで,結局戦争を起こして無理矢理好景気にせざるを得なかった。しかも外国(ライブドアで有名になった,リーマンブラザーズ)からカネを借りてまで日露戦争を「勝利」(実際にはロシア革命のためにロシア軍が撤退しただけで,戦場は中国だった!)させた。そういう表づらだけの「戦勝」は必ず国を滅ぼすと言ったのが,先日取り上げた会津藩出身の職業軍人柴五郎でした。
投稿: kaetzchen | 2006年5月15日 (月) 10時30分
kaetzchenさん、お返事がすっかり遅くなってしまいました。忘れてしまって……
<(_ _)>
そうですよね、手っ取り早く「良い所どり」で、安直すぎた面は否定できませんね。
日露戦争での勝利も手放しで礼賛できない。金銭的にもどれだけ無理をしたか、前の記事にも書きましたが、お金を貸したのはリーマン・ブラザーズですか。
「元寇」を鎌倉幕府が撃退できたのも、単に台風という神風だけではなかった。世界史的に見れば、元に対するアジア諸地域の抵抗運動が影響していますし。
あのあたりの過信・盲信が、敗戦とそれ以前とそれ以後の国民の窮乏を招いたともいえますね。
投稿: とむ丸 | 2006年5月17日 (水) 11時06分
ちなみに,「お金持ちになりたいひとへ」というトラックバックは,悪質なネット右翼のサイトですので,ただちに削除しましょう。私の所にも来ましたので,今度来たら裁判ということになるでしょうな(笑)
投稿: kaetzchen | 2006年5月17日 (水) 19時01分
わざわざありがとうございました。
「つながるモリタク」でよく問題になっている人ですね。
投稿: とむ丸 | 2006年5月17日 (水) 19時48分
そうそう(笑) とむ丸さんもご存じでしたか。
それにしても,お金というのはあくまで生活を支えるため・事業資金を貯金するため,つまり「手段」なのであって,お金そのものを儲けるつまり「目的」になっているというのは,とても悲しいことですね。ホリエモンじゃないけど,お金を儲けることが目的になったら,それこそ身体を壊してしまいますよ。もしかすると,拘置所で減量したのは,ホリエモンの生活習慣病にとっては良かったのかも知れませんね(笑) 私も彼の年頃の頃,気違いみたいに働きまくって,結局身体がついてこなくなって自滅した経験があるだけに,お金と引き換えに自分を売るなんてことが馬鹿馬鹿しくなりました。
投稿: kaetzchen | 2006年5月18日 (木) 09時36分