« 子どもの株投資――自立を急がされた子どもたち | トップページ | 植木枝盛の憲法草案2 »

植木枝盛の憲法草案1

 植木枝盛は1857(安政4) 年、土佐(現在の高知市井口町)に生まれ、21歳の若さで立志社に入り、以後独学で自らの自由民権理論を確立。国会開設を要求した「立志社建白書」を起草し、以後板垣退助のブレーンとして民権理論の普及と運動の発展に生涯を賭けます。1890(明治23)年、第1回衆議院議員に当選しましたが、1892(明治25)年の第2回総選挙を前に36歳の若さで死去しました。

 明治10年代、自由民権派を中心に数々の私擬憲法草案が作成されましたが、植木も、立志社の憲法草案として1881年(明治14)8月に起草しました。18編、附則あわせ220条に及びます。主権在民の画期的な憲法草案でしたが明治政府に葬られ、65年後の1946年の日本国憲法において、ようやくその思想が引き継がれることになったのです。
 
 明治憲法と現行の日本国憲法の違いについては中学・高校で学びましたが、南英世先生のVIRTUAL政治・経済学教室
「明治憲法との比較」に詳しく載っています。一度ご覧になることをお薦めいたします。

 この植木が起草した憲法草案を、明治憲法(大日本帝国憲法)と比べながらちょっと見ていこうと思いましたが、前提となっていることがあまりにも違いました。

 たとえば自由権に関してですが、明治憲法では「法律の範囲内で」という文言が入ります。

第二十二条  日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ移住及移転ノ自由ヲ有ス
第二十九条  日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス

 逆に言えば、法律でいくらでも人権を制限することが可能だ、と考えられます。

 本来、近代世界に誕生した国民国家の定めた憲法は、前の時代に専横を極めた君主の専制権力に対抗して、それに制約を加えるために、一定の政治原理を含む基礎法が確立されたものです。
 
 ですから憲法とは、国家権力を制限し、国民の人権を国家権力から守るべきものです。植木の憲法案には、そんな近代国家を拓いていこうという気概が感じられます。

 また明治憲法の前文ともいえる「告文」・「憲法発布勅語」の御名御璽と日付、明治二十二年二月十一日の後にずらっと並ぶ政権中枢の肩書きを見ると、「○○大臣」と共に「伯爵・子爵」の文字が見えます。

 あらためて「維新」とは何だったのか、維新の主体となった彼ら下級武士は、どんな国家を目指そうとしたのか、考えてしまいます。

 
 私が一番に興味を持った部分、現行憲法の「第3章 国民の権利及び義務」(第10条~第40条)に該当するところは、【明治憲法】では「第2章 臣民権利義務(第18条~第32条)」、植木の草案【東洋大日本国国憲案】では、「第4編 日本国民及日本人民ノ自由権利」です。

「臣民権利義務」と「日本国民及日本人民ノ自由権利」。この語句の違いが、その内容の違いをよく表しています。

 明治憲法「第2章 臣民権利義務」の全15ヵ条には、国民の「自由権利」の規定は皆無である、といっても過言ではありません。先に述べた第22条・29条以外に「自由」の文字が見えるのは第28条です。

第二十八条  日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス

「安寧の秩序」は、いわゆる「公序良俗」ということでしょうが、ここでもやはり「臣民たるの義務に背かざる限りにおいて」という但し書きが入ってきます。

 これに対し、日本国国憲案「第4編 日本国民及日本人民ノ自由権利」は、第40条・41条でのいわば日本国民の定義で始まり、第42条「日本ノ人民ハ法律上ニ於テ平等トナス」と続きます。

 以後第74条まで、国民が享受する自由権利が謳われているわけです。ちょっと長いですが、一つ一つの条文は短く分かりやすいですから、ぜひ最後までご覧ください。

第43条

 日本ノ人民ハ法律ノ外ニ於テ自由権利ヲ犯サレサルヘシ

第44条

 日本ノ人民ハ生命ヲ全フシ四肢ヲ全フシ形体ヲ全フシ健康ヲ保チ面目ヲ保チ地上ノ物件ヲ使用スルノ権ヲ有ス

第45条

 日本ノ人民ハ何等ノ罪アリト雖モ生命ヲ奪ハレサルヘシ

第46条

 日本ノ人民ハ法律ノ外ニ於テ何等ノ刑罰ヲモ科セラレサルヘシ又タ法律ノ外ニ於テ麹治セラレ逮捕セラレ拘留セラレ禁錮セラレ喚問セラル丶コトナシ

第47条

 日本人民ハ一罪ノ為メニ身体汚辱ノ刑ヲ再ヒセラル丶コトナシ

第48条

 日本人民ハ拷問ヲ加ヘラル丶コトナシ

第49条

 日本人民ハ思想ノ自由ヲ有ス

第50条

 日本人民ハ如何ナル宗教ヲ信スルモ自由ナリ

第51条

 日本人民ハ言語ヲ述フルノ自由権ヲ有ス

第52条

 日本人民ハ議論ヲ演フルノ自由権ヲ有ス

第53条

 日本人民ハ言語ヲ筆記シ板行シテ之ヲ世ニ公ケニスルノ権ヲ有ス

第54条

 日本人民ハ自由ニ集会スルノ権ヲ有ス

第55条

 日本人民ハ自由ニ結社スルノ権ヲ有ス

第56条

 日本人民ハ自由ニ歩行スルノ権ヲ有ス

第57条

 日本人民ハ住居ヲ犯サレサルノ権ヲ有ス

第58条

 日本人民ハ何クニ住居スルモ自由トス又タ何クニ旅行スルモ自由トス

第59条

 日本人民ハ何等ノ教授ヲナシ何等ノ学ヲナスモ自由トス

第60条

 日本人民ハ如何ナル産業ヲ営ムモ自由トス

第61条

 日本人民ハ法律ノ正序ニ拠ラスシテ室内ヲ探検セラレ器物ヲ開視セラル丶コトナシ

第62条

 日本人民ハ信書ノ秘密ヲ犯サレザルベシ

第63条

 日本人民ハ日本国ヲ辞スルコト自由トス

第64条

 日本人民ハ凡ソ無法ニ抵抗スルコトヲ得

第65条

 日本人民ハ諸財産ヲ自由ニスルノ権アリ

第66条

 日本人民ハ何等ノ罪アリト雖モ其私有ヲ没収セラル丶コトナシ

第67条

 日本人民ハ正当ノ報償ナクシテ所有ヲ公用トセラルコトナシ

第68条

 日本人民ハ其名ヲ以テ政府ニ上書スルコトヲ得各其身ノタメニ請願オナスノ権アリ其公立会社ニ於テハ会社ノ名ヲ以テ其書ヲ呈スルコトヲ得

第69条

 日本人民ハ諸政官ニ任セラル丶ノ権アリ

第70条

 政府国憲ニ違背スルトキハ日本人民ハ之ニ従ハザルコトヲ得

第71条

 政府官吏圧制ヲ為ストキハ日本人民ハ之ヲ排斥スルヲ得

 政府威力ヲ以テ擅恣暴逆ヲ逞フスルトキハ日本人民ハ兵器ヲ以テ之ニ抗スルコトヲ得

第72条

 政府恣ニ国憲ニ背キ擅ニ人民ノ自由権利ヲ残害シ建国ノ旨趣ヲ妨クルトキハ日本国民ハ之ヲ覆滅シテ新政府ヲ建設スルコトヲ得

第73条

 日本人民ハ兵士ノ宿泊ヲ拒絶スルヲ得

第74条

 日本人民ハ法廷ニ喚問セラル丶時ニ当リ詞訴ノ起ル原由ヲ聴クヲ得 己レヲ訴フル本人ト対決スルヲ得己レヲ助クル証拠人及表白スルノ人ヲ得ルノ権利アリ


 第44条の「日本の人民は生命を全うし四肢を全うし形体を全うし健康を保ち面目を保ち地上の物件を使用するの権を有す」は、現行憲法の第25条「最低生活の保障」を 、「面目を保ち」という語は、現行憲法の「個人の尊重」を思わせます。明治憲法にはそうした文言はみられません。
 

|

« 子どもの株投資――自立を急がされた子どもたち | トップページ | 植木枝盛の憲法草案2 »

「政治」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。