自民党の憲法草案は、憲法違反
とくらさんの所で真名さんがコメントした「憲法改正案について、根本的な疑問が一つある。」件について、長くなりますから、コメントではなく新たな記事としてエントリーします。
真名さんは、「現在の憲法は、『条項追加・削除型』の改正はできるけど、全文から全面的に書き換える全面廃棄・新設型の改正はできないはずだと思う。」と指摘されて、具体的にその根拠も説明されていました。(ここにある「全文」はおそらく変換ミスで、正しくは「前文」だと思います。)
真名さんのおっしゃるように現行憲法は元英文で、the Constitution of Japan に掲載されていました。問題の96条は以下のようになっています。
CHAPTER IX AMENDMENTS
Article 96
- Amendments to this Constitution shall be initiated by the Diet, through a concurring vote of two-thirds or more of all the members of each House and shall thereupon be submitted to the people for ratification, which shall require the affirmative vote of a majority of all votes cast thereon, at a special referendum or at such election as the Diet shall specify.
- 2)
- Amendments when so ratified shall immediately be promulgated by the Emperor in the name of the people, as an integral part of this Constitution.
日本語では次のように訳されていまして、これが、私たちの教科書その他で目にする憲法の条文です。
第九章 改正
【憲法改正の手続き、公布】
第九十六条 この憲法の改正は、各議員の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が此を発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票に置いて、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について、前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
この憲法と「一体を成すもの」の意のintegral partとは「構成部分」の意で、全体を構成するのに必須の要素を指します。
Amendmentについてオックスフォード英語辞典は、
普通名詞としてのamendmentは、テキストや法律を改正するためのminorな、つまり小さな変更や追加であると定義しています。
また固有名詞Amendmentは「合衆国憲法の追加条項である」としています。
なるほど、1787年に制定された合衆国憲法には人権に関する規定がなかったために1791年に最初の修正条項10ヵ条が追加され、現在まで奴隷制の廃止等、26ヵ条が追加されています。ですからこれは、憲法制定時の精神に基づいて追加されたものであることが判ります。私たちがアメリカ流を取り入れるのであれば、弱肉強食の経済活動ではなく、こうした憲法に対する姿勢の方であって欲しいですね。
この憲法改正問題について、手元にある一橋出版の『憲法の解説』には、次のように説明されています。
日本国憲法は、簡単には変えられず(硬性の憲法)、改正には大変厳しい手続がいる。これは、憲法が国の根本を定める法として、安易に改められることをとどめる役割を負っている。
改正には限界がある。一般的にその限界としては、前文に書かれている内容とされている。いいかえれば、憲法の基本方針を明らかにしている前文の内容まで改めることは、「改憲」の範囲を超えてしまうことになる。
この限界を超えれば、それは一つの政治体制そのものの変更ということになり、「憲法改正」という枠の中で考えることはできない。第96条のいう「この憲法と一体を成すものとして」という言葉には、そうした意味が含まれている。
以上、真名さんのご指摘の通りです。
そうなると、現在自民党の憲法草案にある全面書き換えた前文など、もってのほか、というべきですね。もし修正したいというのであれば、前文の精神に基づいた条項を入れるべきなのです。
自民憲法草案そのものが憲法違反で、現在の民主主義体制を変更する試みである、ということです。
その上、同草案では、改正条件をぐーんと甘くして、現行憲法では発議に各議院の総議員3分の2の賛成が必要なところを、過半数で発議・議決できるようにし、さらには「国会の定める選挙の際行はれる投票において」過半数の賛成を必要とすることから、「特別の国民投票において」過半数の賛成を必要とするに変えています。
現草案で妥協した部分も、思惑通りに憲法の変更が可能になった暁には、さらに本来の狙い通りの条文に変えるのも簡単になるわけです。
そうなると、1955年の結党以来自由民主党が持ち続けてきた悲願の憲法草案は、やはり、明治憲法の亡霊、といっても良いかもしれません。
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